「建築士」3月号に二宮のコラムが掲載されました



自分の仕事を豊かにする為に、つくること

 建築設計の仕事はお施主さんから依頼されることで始まる仕事である。私も今まではそう思って事務所の仕事を考えてきたし、設計者とはそういう受け身な立場だと信じてきた。しかし、資金や土地は無いけれども、ある一つの夢をかなえる施設を創りたいというお施主さんの相談に乗っている内に、今、一緒にそれを実現するべく企画書を書いて、資本家にプレゼをする立場になっている自分がいる。建築家の職能を超えて、お施主さんの立ち位置で動くことがとても新鮮な感覚であった。いわゆる設計者としての仕事を与えられる立場を離れ、自分で自分の仕事を創ることができれば、いつ仕事が来るのかわからない状況で受け身的な形での姿勢から脱皮できるのではないかと思っている。
 アトリエハルではここ数年、親しい工務店と組んで新しい住宅の工法を開発中である。大手のプレハブメーカーでは不可能な新しい商品開発が出来ないか、また、一戸毎に設計して、注文住宅として建築するよりも廉価に建ててもらえるような住宅は出来ないか検討を進めている。何とか実現したいと思っているが非常に難しい。新しい技術や工法を開発するには、設計事務所という組織は、あまりにも非力である。吹けば飛ぶような会社で社会的な責任が全うできるのか、仕事を少し覚えたら、独立はするが決して合併することのない体質の設計業界は、どうしたモノであろう。IT業界では、仕事を補完しあえる場合には容易に合併して会社の力を蓄えていくと聞いたことがある。しかし、設計業界ではそのような話は聞いたことがない。あくまで独立して自分が親分にならないと気が済まない設計者ばかりである。そのような体質も変えてゆかなければ、設計事務所は生き残っていけないのではないだろうか。建築は一過性の仕事ではない。30年、50年どころか100年以上使われる建築をこれからは目指していかなければならないであろう。そのような時代に一代限りの弱小事務所が責任を持てるのか、今後社会からその存在意義が問われて来ると思う。自分で仕事を創り、育てていくことが出来る事務所こそ生き残っていく資格のある事務所ではないか、と思っている。